ベクトルの直交性とは、二つのベクトルの内積がゼロであることを意味します。内積がゼロであるとき、二つのベクトルは直角(90度)の関係にあります。
ベクトル \( \mathbf{a} = (2, -1, 3) \) と \( \mathbf{b} = (1, 2, 1) \) が直交しているか確認します。
内積は次のように計算されます:
\[ \mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = 2 \times 1 + (-1) \times 2 + 3 \times 1 = 2 - 2 + 3 = 3 \]
内積がゼロではないため、これらのベクトルは直交していません。
次に、ベクトル \( \mathbf{c} = (1, 2, -2) \) を考えます。\( \mathbf{a} \) と \( \mathbf{c} \) の内積を計算します:
\[ \mathbf{a} \cdot \mathbf{c} = 2 \times 1 + (-1) \times 2 + 3 \times (-2) = 2 - 2 - 6 = -6 \]
内積がゼロではないので、\( \mathbf{a} \) と \( \mathbf{c} \) も直交していません。
最後に、ベクトル \( \mathbf{d} = (1, 2, -1) \) を考えます。\( \mathbf{a} \) と \( \mathbf{d} \) の内積を計算します:
\[ \mathbf{a} \cdot \mathbf{d} = 2 \times 1 + (-1) \times 2 + 3 \times (-1) = 2 - 2 - 3 = -3 \]
やはり内積がゼロではありません。
それでは、直交するベクトルの例として、\( \mathbf{e} = (1, 0, -1) \) を考えます。\( \mathbf{a} \) と \( \mathbf{e} \) の内積は:
\[ \mathbf{a} \cdot \mathbf{e} = 2 \times 1 + (-1) \times 0 + 3 \times (-1) = 2 + 0 - 3 = -1 \]
内積がゼロになりませんが、このままでは直交するベクトルが見つかりません。ここで、\( \mathbf{a} \) と直交するベクトルを一般的に求めてみましょう。
直交条件は \( \mathbf{a} \cdot \mathbf{x} = 0 \) です。未知のベクトル \( \mathbf{x} = (x_1, x_2, x_3) \) に対して:
\[ a_1 x_1 + a_2 x_2 + a_3 x_3 = 0 \]
\( \mathbf{a} = (2, -1, 3) \) の場合、直交条件は:
\[ 2 x_1 - x_2 + 3 x_3 = 0 \]
この線形方程式を満たす \( \mathbf{x} \) は無数に存在します。一つの具体的な解として、\( x_1 = 1 \), \( x_2 = 2 \) とすると:
\[ 2 \times 1 - 2 + 3 x_3 = 0 \implies 3 x_3 = 0 \implies x_3 = 0 \]
よって、ベクトル \( \mathbf{x} = (1, 2, 0) \) は \( \mathbf{a} \) と直交しています。内積を確認します:
\[ \mathbf{a} \cdot \mathbf{x} = 2 \times 1 + (-1) \times 2 + 3 \times 0 = 2 - 2 + 0 = 0 \]
内積がゼロであるため、\( \mathbf{a} \) と \( \mathbf{x} \) は直交しています。
関数の直交性は、関数同士の積を特定の区間で積分した結果がゼロになることを意味します。これは関数空間における内積として扱われます。
関数 \( f(x) = \sin(2x) \) と \( g(x) = \sin(3x) \) が区間 \( [0, \pi] \) で直交していることを確認します。
内積は次のように定義されます:
\[ \langle f, g \rangle = \int_0^\pi f(x) g(x) \, dx \]
計算します:
\[ \int_0^\pi \sin(2x) \sin(3x) \, dx \]
積和公式を使って積を和に変換します:
\[ \sin(2x) \sin(3x) = \frac{1}{2} [ \cos(2x - 3x) - \cos(2x + 3x) ] = \frac{1}{2} [ \cos(-x) - \cos(5x) ] = \frac{1}{2} [ \cos(x) - \cos(5x) ] \]
これを積分します:
\[ \int_0^\pi \frac{1}{2} [ \cos(x) - \cos(5x) ] \, dx = \frac{1}{2} \left( \int_0^\pi \cos(x) \, dx - \int_0^\pi \cos(5x) \, dx \right) \]
各積分を計算します:
\[ \int_0^\pi \cos(x) \, dx = \sin(x) \Big|_0^\pi = \sin(\pi) - \sin(0) = 0 - 0 = 0 \]
\[ \int_0^\pi \cos(5x) \, dx = \frac{1}{5} \sin(5x) \Big|_0^\pi = \frac{1}{5} [ \sin(5\pi) - \sin(0) ] = 0 - 0 = 0 \]
よって、内積は:
\[ \langle f, g \rangle = \frac{1}{2} (0 - 0) = 0 \]
したがって、\( f(x) \) と \( g(x) \) は直交しています。
直交性は数学や物理学で非常に重要な概念であり、以下のような場面で活用されます。
フーリエ級数では、周期関数を三角関数の無限和として表現します。三角関数の直交性を利用して、各係数を計算します。
具体的には、関数 \( f(x) \) を以下のように表します:
\[ f(x) = a_0 + \sum_{n=1}^\infty [ a_n \cos(nx) + b_n \sin(nx) ] \]
ここで、係数 \( a_n \)、\( b_n \) は直交性を利用して次のように計算されます:
\[ a_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^\pi f(x) \cos(nx) \, dx, \quad b_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^\pi f(x) \sin(nx) \, dx \]
信号処理では、直交する基底関数を用いて信号を分解・解析します。例えば、直交周波数成分への分解は、ノイズ除去やデータ圧縮に利用されます。
ベクトルの直交性は、データの次元削減や主成分分析(PCA)などで重要です。直交するベクトル(固有ベクトル)を基底としてデータを再構成します。
ベクトルと関数の直交性は、内積がゼロになることで定義されます。ベクトルの場合、要素ごとの積の総和がゼロであれば直交し、関数の場合、積の積分がゼロであれば直交します。これらの直交性は、フーリエ解析や信号処理、機械学習など、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。